演習001

雑記。

いい本感想:『箱玉系の数理』

ので、雑な感想を書く。

全10章。演習問題はやってない。

第1章:セルオートマトンについて。箱玉系もセル・オートマトンなのでこの説明がある。ルール90とかライフゲームとか有名どころの説明があり、一番最後にソリトンっぽいセルオートマトンってのがあるよっていう話。はえー。

第2章ソリトンの基本的なところについて。ちょっとした歴史。KdV方程式についてNソリトン解と広田の双線形形式、保存量が無限個あるよっていうこととラックス形式についての説明。最後に戸田格子方程式のお話。私はソリトンについてまったく詳しくなかったので、この章と戸田さんの「波動と非線形問題30講」で勉強した。

第3章:箱玉系について。基本的な設定と運動方程式(時間発展ルール)がいくつか紹介される。あとヤング図形で表される保存量があるよっていう話もある。地道に計算したり、具体例を考えたりするのが肝要。

第4章:KP階層の理論について。佐藤幹夫先生の仕事らしい。なかなか難しい。章の本文に入る前に「超離散化のプロセスを説明するためには非線形積分方程式系とその解に対する統一的な見方について述べる必要がある」と書いてあるが、超離散化とKP階層の理論とに直接の関係があったっけ? と読み終えたあとに思った。離散KdVが離散KPから出ることを言っているのか? 単に私が忘れてるだけかもしれない。あと、ここでも戸田さんの30講を参考にした。

第5章:離散KP方程式について。三輪変換で離散KP方程式を作り出して、それに拘束条件(これをリダクションとかいうのか?)を課すことで離散KdV方程式を出す。ついでに離散KdVのNソリトン解も作る。

第6章:離散KdVの超離散化について。ついに超離散化。ざっくり言うと離散方程式を超離散化をするとはセル・オートマトン(箱玉系)になる。離散KdVを超離散化して箱玉系の運動方程式と一致することをみる。また離散KdVのNソリトン解を超離散化して、箱玉系のNソリトン解なるものを作る。

第7章:離散戸田分子の超離散化について:今度は離散戸田分子方程式というものを超離散化する。その結果、離散KdVの超離散化とは異なる表現の箱玉系の運動方程式を得る。さらに保存量の超離散化版を作る。つまり離散KdVと離散戸田分子とが超離散化によって同じ箱玉系としてみなせる?

第8章:周期箱玉系について:今まで考えてきた箱玉系は両端が無限の彼方まで続いていたのに対して、周期箱玉系は端がつながっている。周期境界になると、最小公倍数や最大公約数、リーマン予想が出てきたりして数学数学してくる。正直よくわからなかった。

第9章:可解格子模型との関係について。数学数学し始めたのでバランスを取るために物理物理し始める、というわけでもない。6頂点モデルについて説明があり、転送行列やR行列の話をする。その後格子模型についての結晶化という操作をすると箱玉系が出てくるという話があるが、これもよくわかりません。

第10章:一般化された箱玉系について。箱玉系は、玉に色をつけたり、箱の容量を増やしたり、運搬車とかいうのをくっつけてみたりして、一般化できる。一番一般化された状態を考えて、そこに条件を課していくことで、特殊な(今まで扱ってきた)箱玉系を作り出せるようにする。この一番一般化された箱玉系は格子模型として表せたりもする。さらに、色付きの箱玉系についてBBS散乱則なる規則が定まり、その規則(写像)についてヤン・バクスター関係式が成り立ったりする。

後半になるにつれて誤植が多くなり、説明不足感も強くなっていく(最後の方はほとんどパズル)。実際追うのを諦めたところも多々ある。でも箱玉系についてはなんとなく分かった感じになれはするので、まあ…

でもやっぱり、すべての誤植が生まれる前に消し去られてさえいればなあ…

いい本感想:『アサイラム・ピース』

アンナ・カヴァンアサイラム・ピース」(山田和子訳)のちくま文庫版の感想。

本書の章立ては次の通り:

「鳥」までの短編は、理不尽さや息が詰まるような空気感を共有してはいるけれど、明らかな連続性はない。ところが「不満の表明」から様子が異なってくる。「不満の表明」と「いまひとつの失敗」にはDという人物が共通して現れる。さらには「いまひとつの失敗」は明らかに「不満の表明」の続きとして書かれている。まったく前情報なしで読んだので、連作短編だったっけ?と不意を突かれた感じがした。実際には、連作短編と言えなくもないよね、というくらいの連続具合だろう。

しかし一度連作っぽくなると、そう読んでしまいたくなる。つづく「召喚」、「不愉快な警告」あたりから脅威が現実化しはじめて来て、もういよいよか? と思うところでふわっと「アサイラム・ピース」へと舞台が移る。「アサイラム・ピース」から「終わりはない」まではテーマがはっきり見えてきてすごく滑らかに読めた。なだらかな線を(終わりのない終わりへと)降って行くような感覚。解説で皆川博子が短編・掌編の配列が巧みである云々と言っているがまさにその通りです。

全身全霊を振り絞ってでも逃げ出したいような場所・出来事へと向かっている。当然がんばって回避すべきなのだが、こころの内には無気力さや諦念が常にあって、たとえ反抗心が熾ったとしても一瞬のこと、すぐに倦怠感の暴風によって消し去られてしまう。そして結局は何もかもを断念して、終わりの時を待っている。そんな感じの突き抜けた無力感が欲しい人向けの本。