演習001

雑記。

いい本感想:『アサイラム・ピース』

アンナ・カヴァンアサイラム・ピース」(山田和子訳)のちくま文庫版の感想。

本書の章立ては次の通り:

「鳥」までの短編は、理不尽さや息が詰まるような空気感を共有してはいるけれど、明らかな連続性はない。ところが「不満の表明」から様子が異なってくる。「不満の表明」と「いまひとつの失敗」にはDという人物が共通して現れる。さらには「いまひとつの失敗」は明らかに「不満の表明」の続きとして書かれている。まったく前情報なしで読んだので、連作短編だったっけ?と不意を突かれた感じがした。実際には、連作短編と言えなくもないよね、というくらいの連続具合だろう。

しかし一度連作っぽくなると、そう読んでしまいたくなる。つづく「召喚」、「不愉快な警告」あたりから脅威が現実化しはじめて来て、もういよいよか? と思うところでふわっと「アサイラム・ピース」へと舞台が移る。「アサイラム・ピース」から「終わりはない」まではテーマがはっきり見えてきてすごく滑らかに読めた。なだらかな線を(終わりのない終わりへと)降って行くような感覚。解説で皆川博子が短編・掌編の配列が巧みである云々と言っているがまさにその通りです。

全身全霊を振り絞ってでも逃げ出したいような場所・出来事へと向かっている。当然がんばって回避すべきなのだが、こころの内には無気力さや諦念が常にあって、たとえ反抗心が熾ったとしても一瞬のこと、すぐに倦怠感の暴風によって消し去られてしまう。そして結局は何もかもを断念して、終わりの時を待っている。そんな感じの突き抜けた無力感が欲しい人向けの本。