いい本感想:『シメジ シミュレーション 02』
つくみずの思想的な傾向がよく表れている。
つくみず『シメジ シミュレーション 02』の感想。ちなみに第1巻の感想は書いていない。 頭にしめじの生えた女子高生月島しじまと、頭に生まれつき目玉焼きが乗っている女子高生山下まじめの二人を中心とした学園日常漫画である。 今のところ巻ごとに話が区切られていて、前半の数話で学園や街の日常とキャラの紹介、中盤で何やら不思議なことが進行しはじめ、最後は日常の枠が外れて「街」ではないどこかへと突破し、戻ってくるという構成になっている。 基本は4コマ漫画なのだが、その形式にはあまり拘らず、コマの外の書き込みや、枠線以外でのコマ区切りなどマンガ的表現も凝っている。 まじめちゃんの不格好な明るさを除けば、作品全体に気怠げな、やる気のない、あるいは鬱々とした空気が漂っていて、私好みである。
リバース・エンジニアリング
(合ってるかどうかは知らない)
思想系の人々の中には科学趣味を持っている向きがある。私はつくみずを自然哲学寄りの思想系の漫画家だと思っているのだが、今回の『シメジ シミュレーション 02』ではその傾向が前面に出てきている。まずなによりも今巻の主題が「地球に穴を開けてそのトポロジーを変えてやろう」というものであるし、永久機関が不可能であることを著者がわかっているから、ヒラメによる未知の相互作用を導入してみたりしているし、高校物理くらいの計算も出てくる。特に、前巻からの穴掘り部とトポロジーを結びつけた点と、永久機関の動力を未知の相互作用だと言い切ってしまうあたりのセンスがいい。相互作用こそ現代物理学の神髄であるから。
科学趣味だけでなく文学や哲学もいろいろ嗜むようで、それを象徴する図書館の主(ただし盲目ではない)が登場するが、その言い回し(「(木の構造と)同様の幾何学を得て重力に逆らい命として屹立する」とか)には、シモーヌ・ヴェイユの『重力と恩寵』やパスカルの『パンセ』の影響を感じずにはいられない。あと『トゥルーマン・ショー』が出てくるのも好きだ。
とまあリバース・エンジニアリング的楽しみ方をしているのだが、私はこういう思想系というか哲学をかじっているような感じの人の作品が好きだ。私自身にも覚えがあり、デカルトの『方法序説』やそれこそ『パンセ』、『ツァラトゥストラかく語りき』、『エチカ』などに取り組んで返り討ちにあい、さらには『論理哲学論考』や『統辞構造論』などにまで手を出してみたことがある(少女終末旅行のアンソロに出てきたシュレディンガー『生命とは何か』とかももちろん)。そして、得るものがなかったわけではないが、最終的にはそのすべてに敗れてきた。
これらの試みは私の場合「自分が生きているこの世界を理解したい」とか「世界はつらいので救済がほしい」とかいう動機から出発していた。世界を理解・解釈するといえば哲学だろうという短絡的な思考である。私はその後物理学的な世界の解釈や予言能力、反証可能性が気に入り、そっちに逸れていった。つくみずが進もうとしてもがいているのは、私にはなし得なかった道なのである。
そんなこんなで気になっているので、ぜひ頑張って欲しい。一読者の無責任故の言葉なのでご寛恕いただきたいが、バートランド・ラッセルあたりを読んでセンス・データの話をしてみたりしていただきたい。